ショートショートショート2007年06月13日 20時03分49秒

  『聖剣』


ついに辿り着いた。この扉の向こうに奴がいるのは間違いない。

長い旅路だった。5人いた仲間も全て死んだ。
盾はさっきの魔物との戦闘で砕けちった。自慢の鎧もボロボロだ。

だが負ける気はしなかった。右手には強い味方が握られている。
それは伝説の聖剣だった。
自ら使用者を選び、その選ばれし者へと語りかけると言われる
伝説の剣。
旅の途中、冷やかし半分で寄ったほこらで、これまで誰も岩から
抜くことができなかったこの聖剣を俺はあっさりと引き抜いたのだ。

この剣は俺の手にしっくりとなじみ、まるで重さを感じない。戦闘が
始まると聖剣は青白く輝き、俺の体まで軽くするようだった。

俺は聖剣に選ばれたようだ。
あいにくまだ語りかけては来ていないが。
……まぁ、伝説なんてそんなものだろう。
そう思っていたのだが。

「とうとうここまで来たな、勇者よ。ここがゴールだな」

あまりにも唐突に、剣が語りだした。低いがよく通る老人の声
だった。

「聖剣……?」
「そうだ。おまえならここまで辿り着けると思っていた。さぁ勇者よ、
 その扉を開けるのだ」
「あ、あぁ」

俺は伝説の聖剣に勇者と呼ばれたことをくすぐったく感じながらも、
気を引き締めて扉に手を掛けた。

「いくぞ……!」

扉を開く。
薄暗い部屋の中、姿がまだはっきりと見えないのに奴の禍々しい
存在感を感じる。

と、突然聖剣が俺の右手から離れ、ふわりと宙に浮いた。

「助かったよ勇者。ありがとう。私が選びし、私の使用者のもとへと
 連れてきてくれて。君ならここまで来れると信じていた」
「なっ……」

聖剣は、これまで俺が見たこともないような輝きを放ちながら、
部屋の奥へと吸い込まれていった。


    =完=